漫画家の消費税とインボイス、知っておきたい判断基準

名古屋市天白区の税理士 彦坂です。

ひとり法人・個人事業主の方を中心に、
年商1億円以下のスモールビジネス専門の税理士として活動しています。

今回は、漫画家さんが知っておきたい消費税の納税義務の仕組みと、インボイス登録をめぐる判断のポイントについてお話しします。

漫画家さんの確定申告や税務のご相談を受けていると、こんな声をよく耳にします。

「原稿料から毎回、源泉徴収で税金が引かれているので、その中に消費税の分も含まれていて、消費税もちゃんと納めていると思っていました。」

実はこれ、かなり多くの漫画家さんが誤解しているポイントです。

原稿料から引かれているのは「所得税」です。
消費税とはまったくの別物なんです。

消費税を納める義務があるかどうかは、原稿料から税金が引かれているかどうかとは関係なく、別の基準で決まります。

つまり「税金が引かれているから消費税も大丈夫」ではなく、「そもそも別の税金の話をしている」というのが正しい理解です。

また、こんな声も少なくありません。

「インボイス登録をしていないので、消費税は関係ないと思っていました」

こちらも、実は誤解です。

消費税を納める義務があるかどうかは、インボイス登録をしているかどうかより前に、そもそも別の基準で決まっています。
登録していないからといって、必ずしも消費税と無縁というわけではないのです。

この2つの誤解を出発点に、今日は漫画家さんに向けて、消費税とインボイスにまつわる制度を整理していきたいと思います。

少し長い記事になってしまったので、気になるところだけでも、目次から拾い読みしていただけたら嬉しいです。

今回の内容

消費税を納める義務はある?(納税義務の判定)

まず押さえておきたいのが、消費税を納める義務があるかどうかの、基本的な判定方法です。

消費税を納める義務があるかどうかは、本来「2年前の売上がいくらだったか」で決まる仕組みになっています。
ここでポイントになるのが、見ているのが「今年の売上」ではなく「2年前の売上」だという点です。

イメージとしては、次のようになります。

2年前今年この年の売上を見る2年前の売上を見ます2年前の売上が1,000万円を超えていれば、今年は納税義務があります。※具体的な数字を使った例は、この後の「基準期間の売上が1,000万円を超えたら」で紹介します。

2年前の売上が1,000万円以下であれば、本来は消費税を納めなくてよい「免税事業者」という立場になります。

ここで、漫画家さんがデビューしたばかりの時期について、押さえておきたいことがあります。

そもそも開業してから1年目・2年目は、「2年前」にあたる期間そのものが存在しません。
まだ実績のない年を基準にはできないため、原則としてこの2年間は自動的に免税事業者になります。

開業1年目2年目3年目4年目基準期間がまだ存在しない→ 原則、免税事業者3年目以降は「2年前の売上」で通常通り判定※わかりやすくするための一例です。

つまり、開業1年目・2年目は、基本的には消費税の心配をしなくてよい状態にあるということです。

ただし、3年目からは話が変わります。
3年目は、1年目の売上が「2年前の売上」にあたるため、通常通りの判定が始まります。
もし1年目の売上が1,000万円を超えていた場合、3年目から消費税の申告・納税義務が生じることになります。

つまり、開業したばかりの1年目・2年目は「基準期間がまだない」という理由で、消費税の心配をしなくてよい状態にあります。
3年目以降は、通常のルール通り「2年前の売上」によって、その年ごとに消費税の納税義務の有無が決まっていきます。

インボイス登録をしたら?

ここまでの基準に当てはまり、免税事業者にあたる場合でも、ここで関係してくるのが「インボイス登録」です。

インボイス登録とは、「適格請求書」と呼ばれる、消費税の記載ルールを満たした請求書を発行できる事業者になる手続きのことです。

なぜインボイス登録を勧めるか?

出版社のような取引先企業は、支払った消費税を自社の消費税計算から差し引く際、このインボイスが必要になります。
つまり登録は、取引先企業側の税務上の都合に応えるための手続きだといえます。

インボイス制度が始まってから、フリーランスの方々は取引先から「登録してください」と言われるケースが増えました。
企業を相手に仕事をしている以上、当然といえば当然です。取引先の企業側が、税金の計算上、損をしてしまう仕組みになっているからです。

漫画家さんも登録した方がよい?

ところが漫画家さんの場合、出版社から強く登録を迫られたという話は、他の業種に比べるとあまり聞きません。
これにはいくつか理由が考えられます。

まず、出版業界には「作家との関係性」という要素が大きく影響します。

出版社にとって、漫画家さんは単なる「取引先の一つ」ではありません。
その作品があってはじめて雑誌が売れ、単行本が世に出て、メディアミックスの展開も生まれます。出版社の売上そのものを支えている存在といっても、言い過ぎではないはずです。

だからこそ、担当編集者や出版社としても、目先の税務上の都合だけで作家との関係を損ないたくない、という事情があります。
連載を抱えている方、固定ファンがついている方であれば、なおのこと「登録してください」の一言を切り出しにくい空気があるはずです。

長年の実績や、代えのきかない画力・世界観を持っている作家さんほど、出版社側は強い交渉をしにくい。
これは他の多くのフリーランス業種にはない、漫画家さんならではの立場の強さだと言えるでしょう。

理由①
作家との関係性
人気作家・固定ファンを抱える方ほど、出版社側も強い交渉をしにくい
理由②
経過措置の活用
未登録の相手からの仕入れでも、一定割合は出版社側の負担を軽くできる仕組みがある

こうした理由から、実際のところ、多くの出版社さんは「登録してもしなくても、どちらでも構いません」というスタンスで対応しているケースが多いようです。

ただし、これはあくまで「今のところ、そういう傾向が見られる」という話です。
出版社の方針は今後変わる可能性がありますし、実際に登録を打診されている方もいらっしゃいます。契約している出版社の規模や方針によっても、対応は大きく異なりますので、気になる方は一度、担当編集者に確認しておくと安心です。

ここからは私個人の見解になりますが、出版社側から特に求められていないのであれば、無理に登録する必要はないと考えています。
登録すれば、その分だけ消費税の負担が新たに増えることになります。求められてもいないのに、あえて自分から負担を増やしにいく必要はないというのが、率直なところです。

インボイス登録した場合の消費税の扱い

では、そのうえで実際に登録した場合、負担はどう変わるのでしょうか。

ここで注意したいことがあります。
「どちらでも良い」と言われたからといって、なんとなくの雰囲気で登録してしまうと、思わぬ負担につながることがあるのです。

本来、消費税を納める必要がない「免税事業者」の状態であれば、登録をしなければ、消費税に関することは何も考えなくて済みます。
ところが、そこであえてインボイス登録をすると、その瞬間から消費税を納める義務のある事業者に変わり、これまで払わずに済んでいた消費税を新たに払うことになります。

「2年前の売上が少なかったから、今年も納めなくていいはず」という免税事業者としての前提が、登録によって上書きされてしまうということです。

2年前(2024年)の売上が990万円(1,000万円以下)で、本来は2026年も免税事業者にあたる方が、2026年1月1日からインボイス登録をしたとします。

2024/1/12024/12/312026/1/12026/12/31【2年前】売上990万円(1,000万円以下)1/1から登録2026年は1年を通して課税事業者に2年前の売上が990万円(1,000万円以下)で本来は免税事業者でも、登録した年は1年分まるごと、消費税の申告・納税義務が生じます。※わかりやすくするための一例です。年の途中から登録した場合は、登録日以降の売上のみが対象になります。

インボイス登録の大きなポイント

登録した瞬間から、売上規模を問わず消費税の申告・納税が必要になります。

注意点

「出版社さんに勧められたから」「なんとなく周りが登録しているから」という理由だけで登録してしまうと、結果的に損をしてしまうケースは少なくありません。登録するかどうかは、ご自身の売上や取引先の状況を踏まえて判断することをおすすめします。

では、実際に免税事業者の方が登録した場合、どのくらいの負担になるのでしょうか。

このケースで使えるのが「2割特例」という期間限定のルールです。

売上にかかる消費税のうち、2割だけを納めればよいというシンプルな仕組みで、細かい経費の計算をする必要もありません。

たとえば年間の売上が900万円(消費税を含めると990万円)の方であれば、次のような流れで納税額の目安を計算します。

1

年間売上(税抜)

900万円

2

消費税相当額

90万円

3

2割特例での納税額

18万円

免税事業者だった方が登録する場合は、まずこの2割特例を軸に考えていただくのがシンプルです。

インボイス登録しなくても

ここまでは「登録した場合」の話でしたが、登録しない場合も、消費税をまったく気にしなくていいわけではありません。
むしろ「納める義務がないからこそ」、思い込みで判断してしまいやすい部分でもあります。

ここで、実際によくあるケースをご紹介します。

「消費税を納める義務がないから」という理由で、出版社からの支払通知書に記載されていた消費税相当額を売上から除いて、所得税の申告をしていたケースがありました。

免税事業者は、消費税を国に納める必要はありません。
ですが、出版社からの支払通知書に消費税相当額が上乗せされている場合、それも含めた金額の全額が、ご自身の売上(収入)になります。

例えば、原稿料の本体価格が10万円で、消費税相当額1万円が上乗せされた支払通知書を受け取った場合で考えてみましょう。

原稿料の本体価格
10万円
消費税相当額
1万円
受け取る金額
11万円
✕ 誤った処理 消費税相当額の1万円を除いて、売上10万円として計上してしまう
◯ 正しい処理 受け取った金額の全額、売上11万円として計上する

「消費税分だから、自分の収入ではない」と考えて売上から除いてしまうと、本来より少ない金額で所得税を申告してしまっていることになります。
免税事業者で申告・納税義務がないのは、あくまで消費税についてです。所得税の申告では、消費税相当額も含めた全額を売上として計上する必要があります。この勘違いが、思わぬ形で所得税の申告にまで影響してしまう、という一例です。

だからこそ、インボイス登録をするかどうかも、仕組みをしっかりと把握したうえで考えるべき選択だといえます。

2026年で終わる「2割特例」、その後はどうなるのか

先ほど出てきた「2割特例」について、もう少し詳しくお伝えします。

これはインボイス制度が始まったタイミングに合わせて設けられた、期間限定の負担軽減ルールです。

前の章でお伝えした通り、対象になるのは「本来は免税事業者だったのに、登録によって納税義務が生じた方」だけです。
2年前の売上がもともと1,000万円を超えている方は、そもそもこの特例の対象外になります。

対象になる方であれば、売上にかかる消費税の2割だけを納めればよいという、手間も負担も軽いルールで、多くの個人事業主の方が活用してきました。

ただし、このルールには期限があります。

期限に関する重要ポイント

2026年分(今年)の確定申告が、2割特例を使える最後の年です。

国の税制改正では、2割特例を延長せず、代わりに「3割特例」という新しいルールを作ることが決まりました。

3割特例は、2027年分・2028年分の2年間だけ使える、売上にかかる消費税の3割を納めるルールです。
2割特例より負担は増えますが、いきなり本来の計算方法に切り替わるよりは、まだ緩やかな移行といえます。

先ほどと同じ、年間売上900万円(消費税を含めると990万円)の方で考えてみましょう。

1

年間売上(税抜)

900万円

2

消費税相当額

90万円

3

3割特例での納税額

27万円

2割特例のときは18万円だった納税額が、3割特例では27万円になります。
同じ売上でも、9万円も負担が増えるということです。

つまり、もともと免税事業者だった漫画家さんが、これから登録を検討する場合は、次のようなスケジュールになります。

時期 使えるルール
今年(2026年分) まだ一番軽い「2割特例」が使える
来年からの2年間 少し負担が重い「3割特例」が使える
その後 簡易課税か本来の計算方法を選ぶ必要がある

※国の税制改正大綱をもとにした概要です。詳細は今後の国税庁の発表をご確認ください。

このように、段階的に負担が増えていくスケジュールを踏まえて、判断する必要があるということです。
「今は2割特例があるから大丈夫」と思っていても、数年後には自動的に負担が重くなっていく仕組みになっている点は、見落とされがちなポイントです。

基準期間の売上が1,000万円を超えたら

もう一つ、押さえておきたいケースがあります。

これは、インボイス登録をしているかどうかとは関係のない話です。
連載が軌道に乗ったり、単行本の売上が積み重なったりすれば、話は変わってきます。

ある年の売上が1,000万円を超えると、その2年後の売上から、消費税の申告と納税が必要になります。
売上が伸びている実感があっても、実際に納税義務が発生するのは2年後なので、気づかないうちに対象になっていた、というケースも少なくありません。

「デビュー当初は関係なかったから」と思ったままにしていると、いつの間にか納税義務が発生していた、ということも起こり得ます。

例えば、次のようなイメージです。

2024/1/12024/12/312026/1/12026/12/31【2年前】基準期間売上 1,200万円【今年】当年度2年前の売上を見ます2年前の売上が1,000万円を超えているので、今年(2026年)は消費税の申告・納税義務があります。※わかりやすくするための一例です。実際の判定には、他にも考慮すべき点があります。

このように、見ているのは「今年の売上」ではなく「2年前の売上」です。
2年前の売上が1,000万円を超えていれば、今年の売上がどうであっても、インボイス登録の有無に関係なく、消費税の申告・納税が必要になります。

このケースで、一つ気をつけたいことがあります。
「インボイス登録をしたのだから、2割特例が使えるはず」と思われるかもしれませんが、そうとは限りません。

先ほどご紹介した「2割特例」は、本来は免税事業者だったのに、インボイス登録によって納税義務が生じた方だけが使える、あくまで特例的なルールです。
もともと2年前の売上が1,000万円を超えていて、登録の有無にかかわらず納税義務がある方は、この特例の対象外となり、通常の計算方法(いくつか選択肢があります)で消費税額を計算することになります。

ここで、もう一つ知っておいていただきたいことがあります。
この通常の計算方法についても、事前の届出によって有利な方法を選べる場合があり、その届出には期限があります。通常の計算方法の詳しい内容については、別の記事で改めてまとめる予定です。

「自分の場合、どの方法が有利なのか」「いつまでに何を届け出ればいいのか」は、個々の状況によって変わってきますので、該当しそうな方は早めにご相談いただくことをおすすめします。

まとめ

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

いかがでしたでしょうか。

消費税の納税義務は本来「2年前の売上」で決まりますが、インボイス登録をすると、免税事業者だった方もその立場が変わり、売上規模を問わず納税義務が発生します。
出版社から強く登録を迫られにくい傾向はあるものの、なんとなくの理由で登録してしまうと、思わぬ負担につながることもあります。

そして今使える「2割特例」は今年で終わり、来年からの2年間は「3割特例」、その先は簡易課税か本来の計算方法かを選ぶ必要があります。

ここまで見てきた一つひとつの内容だけでも、決して簡単ではありません。
さらに実際の判断では、こうした論点がいくつも組み合わさってきます。

例えば「インボイス登録をすれば2割特例が使える」と思っていても、基準期間の売上がもともと1,000万円を超えていれば、この特例は使えません。
一つひとつの制度は理解できても、ご自身の状況にいくつも当てはめていくと、思わぬところで結論が変わってしまうことがあります。

「登録すべきかどうか」は、取引先との関係やご自身の収入の中身、今後数年の制度の変化まで踏まえて判断する、意外と奥の深いテーマです。

漫画家さんのように収入の形が独特な方こそ、ご自身の状況に当てはめたシミュレーションが欠かせません。
こうした制度まわりは、その都度スポットで確認するよりも、日頃から数字を把握している専門家がそばにいる方が、判断のスピードも精度も上がります。

「インボイス登録した方がいいのか、正直よくわからない」

「売上は伸びてきたけど、消費税のことまで気が回らない」

「そろそろ税務まわりをきちんと整備したい」

そんな方は、ぜひ一度ご相談ください。記帳から申告まで丸ごとお任せいただけます。

CONTACT

ご相談は無料です

まずはお気軽にお問い合わせください

シェアしていただけると励みになります
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
今回の内容